2011年5月14日土曜日

浦島太郎を助けた亀


 ※出典:加治木義博:言語復原史学会
     日本国誕生の秘密 205~216頁
     ㈱徳間書店
           日本国誕生の秘密 

 「『海幸・山幸』神話」
 「神話と浦島のお話との大きな共通点」
 「『浦島太郎』に使った部分」
 「海神の宮=竜宮城」



 「『海幸・山幸』神話」

 天孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)は天降(あまくだ)って
 
 鹿児島県の吾田(あた)で鹿葦津(かあしつ)姫=別名・神吾田津姫=別名・木花開耶(このはなさくや)姫と結婚し、三人の男の子が生まれる。

 そのうちの兄が海釣りの上手な「海幸彦」。

 弟が山狩りの上手な「山幸彦」である。

 (しかし『日本書紀』では、この兄弟の名や、生まれた順序が、
 
  「一書」という別伝ごとに違いますので、
 
  どれが正しいのか、本当のことはわかりません)

 ある日、海幸彦が山幸彦に、

 「海は風雨のたびに漁ができない。

  一度、道具を換えてくれないか?」という。

 弟は承知して、釣り道具と弓矢を交換する。

 ところが山幸彦は慣れない釣りで、魚に釣り針をとられてしまう。

 海幸彦も慣れない狩りで、さっぱり獲物がないので、

 釣り道具を返してくれ、という。

 山幸彦が釣り針を失ったことを詫びたが兄は許さない。

 どうしても、その針を返せという。

 困った弟は、海岸で出会った塩土老翁(しおつちのおきな)に事情を話す。

 翁は「目無籠(まなしかたま)」という竹編みの小船に、

 山幸彦を乗せて海に沈める。

 すると小船はひとりで流れて不思議な浜辺に着く。

 少し行くと海神(わたつみ)の宮がある。

 水を汲みに出てきた美人が父母に来客を告げる。

 座敷に通されて、何のご用か?

 と尋ねられたので事情を話すと、海神は多くの魚たちを集めて、

 だれか心当たりはないか?

  ときく。

 魚たちは

 「知りませんが、赤女(あかめ)(=タイ)が病気で今日も来ておりません」という。
 そこで家来をやって連れてこさせ、口を調べると山幸彦がなくした針が見つかる。

 しかし山幸彦は海神の子の「豊玉姫(とよたまひめ)」と結婚して帰らない。

 楽しい日々を送っていたが、3年経つとホームシックにかかって溜息をもらす。

 姫が海神に相談したので、

 海神は山辛彦に

 「帰りたければ送らせますが、

  釣り針をお兄さんに返す時は口の中で

  貧乏針(まぢぢ)と唱えてからお渡しなさい」と教える。

 また別に二つの玉をプレゼントして、

 「この潮満(しおみつ)の玉を海に入れると、

  お兄さんの国は一面水びたしになって、

  お兄さんを溺れさせて困らせることができます。

  お兄さんが悪かったと謝れば、今度は、

  この潮干(しおひる)の玉を海に入れると、

  水がひいて元どおりになります」

 と使い方を教える。

 <絵:山幸彦と豊玉姫の出会い>

 「海神の宮…高段てり輝き

  …門の前に井あり

  …その上にカツラの樹あり

  …彦火火出見尊その樹下に就きて彷篠したまふ……。

  一美人、とぴらをあけて出で、

  玉椀をもちきたりて水を汲もうとて、限をあげ見て、

  驚き手かえりはいる…」

 と『日本書紀』が書く場面。

 「<野緑耳画(菊地寛『日本建国童話集』文芸春秋社刊の挿絵>

 豊玉姫は、

 「私は間もなく出産する予定です。

  強い風が吹く日を選んで船であなたのお国まで行きますから、

  浜辺に産屋(うぶや)(=子供を産むための家)を建てて

  待っていてください」

 といい、山幸彦は承知して故郷へ帰った。

 そして釣り針を兄・海幸彦に返すとき海神の教えた通りにすると、

 本当に国が水に漬かってしまい、兄は困って、

 自分が悪かったことを認めて降参し、

 「今後はあなたの祭りごとのための舞踊を踊る家来になります」

 と誓った。

 この兄が後世の吾田の君(アタのキミ)一族の先祖である。

 そのあと山幸彦が約束どおり海岸に産屋を建てて待っていると、

 豊玉姫は妹の玉依姫(たまよりひめ)と一緒に強風の日に船で看いた。

 そして産屋に入るとき山幸彦に、

 「絶対に産屋の中を、のぞかないように」

 といいつけ、山幸彦も決して、のぞかないと堅く約束した。

 しかし、お産の時が迫ってくると、

 産屋の中から姫の苦痛の声がもれてくる。

 そわそわしながら約束を守っていた山幸彦も、

 その苦しそうな声を聞くと、

 姫が死ぬのではないかと不安に駆られて、

 我慢しきれなくなって中をのぞいた。

 そこには姫の姿はなく、

 恐ろしい竜が、あえぎながら横たわっていたが、

 山辛彦がのぞいたので竜はアッと驚いて姫の姿に戻ると、

 恥ずかしさに耐えかねながら、

 「もしあなたが約束を破らなければ海の国と陸の国とは

  何時までも永く仲良くして、

  あなたとのご縁も切れなかったものを……残念だわ」

 と嘆いて、

 生まれた子供を草(カヤ)に包んだだけで渚(なぎさ)に置いて、

 海の道を閉じきって海神の宮へ帰ってしまった。

 このことからその子供は

 「ヒコ・ナギサ・タケ・ウカヤ・フキアエズノミコト=彦・

  波瀲・武・鸕鷄草・葺不合尊、または日子・波限・建・

  鵜葺草・葺不合命」と名づけられた。

 その後、

 山幸彦は「彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)」として長生きし、
 死後は、日向(古代の日向は鹿児島県と宮崎県との全域)の

 高屋山上陵(タカヤのヤマのウエのミササギ=鹿児島県姶良郡溝辺町)に葬られている。

 以上が『日本書紀』にのっている本文の要約です。

 『日本書紀』にはこのほか少し内容の違う別話の

 「一書」が四つ付記してあり、『古事記』のお話もまた多少違っています。


 「神話と浦島のお話との大きな共通点」


 以上をご覧いただくとおわかりのように、重要なモチーフは全部一致しています。

 念のためにそれを数えてみますと、次のようになります。

 1 主人公は海へ釣りに行く。
 2 小船に乗って行く。
 3 海の向こうの不思議な国へ行く。
 4 美しい宮殿に迎えられる。
 5 結婚する。
 6 相手はその国の王の美しい姫。
 7 しかしその正体は人間ではない。
 8 それは神に近い霊的な生物。
 9 竜も亀も海に住む霊的な爬虫。
 10 不思議な楽しい結婚生活を送る。
 11 その期間は3年間。
 12 夫は故郷に帰りたくなる。
 13 贈り物をもらう。
 14 それは「玉……」である。
 15 妻が夫に何かを禁止する。
 16 夫は「守る」と約束する。
 17 夫のホームシックは重症化。
 18 夫は故郷に帰る。
 19 夫は妻の禁止を忘れて約束を破る。
 20 そのため二人は永遠に別れてしまう。

 少なくも以上の20点は、『浦島太郎』と『海幸・山幸』の、物語の重要な骨組みになっているモチーフで、これは誰が見ても全く同じです。


 「『浦島太郎』に使った部分」

 どちらのお話が原話かはこの二つを比較してみるとわかります。

 『浦島太郎』のお話は、『海幸・山辛』神話の一部分だけが

 独立しているので、神話のほうが古いのです。

 『浦島太郎』のお話では、『海幸・山幸』兄弟が

 道具を交換した話とその結果がなくなっています。

 またその間にある「子供が生まれる話」も、

 それが原因で夫婦が別れたことも消されてしまって、

 ただ妻が禁止した「タブーの約束」だけが残され、

 最後に太郎が、あっというまに老人に変身するクライマックスに

 利用されていることがわかります。

 相違点も重要ですから、それも入れて、改めて見やすいように

 一覧表にしてみましょう。
 
   『海幸・山幸』             『浦島太郎』

 兄弟がいる               ×
 道具を取り替える            ×
 1 海へ釣りに行く           1 海へ釣りに行く
 釣り針を失い、兄は許さない       ×
 2 小船に乗って            2 小船に乗って
 ×                   亀を釣り上げ、逃がしてやる
 ×                   美人が小船に乗ってくる
 ×                   故郷へ送ってくれと泣きつかれる
 海神の住む               ×
 4 美しい宮殿に迎えられる       4 美しい宮殿に迎えられる
 魚の口から釣り針が見つかる       ×
 5 そこで結婚する           5 そこで結婚する
 6 相手はその国の美しい姫       6 相手はその国の美しい姫
 7 しかしその正体は人間ではない    7 しかしその正体は人間ではない
 8 それは神に近い霊的な生物である   8 それは神に近い霊的な生物である
 9 竜(海に住む霊的な爬虫)       9 竜(海に住む霊的な爬虫)
 10 不思議な楽しい結婚生活を送る    10 不思議な楽しい結婚生活を送る
 11 その期間は3年間である       11 その期間は3年間である
 ×                   父母に会いたくなる
 12 夫は故郷に帰りたくなる       12 夫は故郷に帰りたくなる
 海神が兄をこらす方法を教える      ×
 海神に満潮・干潮の玉をもらう(玉)    ×
 ×                   妻に形見の玉櫛笥をもらう(玉)
 13 別れに贈り物をもらう        13 別れに贈り物をもらう
 14 それは「玉」の名のついたもの     14 それは「玉」の名のついたもの
 妻は妊娠している            ×
 夫の故郷で産むという約束        ×
 15 妻の禁止              15 妻の禁止
 16 夫の約束              16 夫の約束
 17 故郷に帰る             17 故郷に帰る
 海神の教えに従って兄を苦しめる     ×
 負けた兄は臣下になる          ×
 妻がお産にやってくる          ×
 ×                   3年と思ったのは700年だった
 × (妻のお産を見てしまう)       × (玉櫛笥を開けてしまう)
 妻は恥じて怒る             ×
 ×                   太郎はたちまち老人になる
 妻は子供を置いて帰ってしまう      ×
 19 夫は故郷に帰る           19 夫は故郷に帰る
 20 二人は永遠に別れてしまう      20 二人は永遠に別れてしまう
 ×                   太郎はツル(鶴)に変身する
 夫は死後、御陵に葬り祭られる      ×
 ×                   夫婦は明神として祭られる

 
 「海神の宮=竜宮城」

 以上の他にも、浦島の元の話が

 『海幸・山幸』だとわかるものが幾つもあります。

 その第一は「竜宮城」という名前なのです。

 『日本書紀』では「海神の宮」と呼ばれて「竜宮城」ではありません。

 しかし、豊玉姫がお産をするとき「竜」の正体を現わしましたから、
 「海神」とは「竜」のことだとすれば、

 「海神の宮」は「竜の住む宮殿」すなわち「竜宮」だということになります。

 またその豪華な建築を「宮城」と表現すれば「竜宮城」です。

 こうみてくると海神の宮と竜宮城とは完全に同じものだということがわかります。

 また「竜」と「亀」が古代には、どちらも不老長寿の霊獣で、

 また同じ霊的な爬虫だとされることはよくご存じだと思います。

 ところが、その名にもまた大きな共通点があります。

 亀(カメ)は沖縄発音では「カミ」、これは「神」に一致します。

 神と竜は発音共通点はありませんが、

 「ワタツミ」に重要な関係があります。

 古代日本語には「ツ」と「ス」の区別がなく、

 その中間音の「ヅ」「ズ」だったのです。

 だから従来「ワタツミ」または「ワダツミ」と読んできた

 「海神」は、正確には、

 「ワタヅミ」か「ワダズミ」と発音されていた言葉で、

 「ワタ」は海のことですから、

 残る「ズミ」が何を意味しているかを知るには、

 その名をもつのはどういう存在か、考えてみることです。

 「海神」とは海に住む神のこと。

 そして「竜」も海に住むし、その支配する魚類なども、

 全て「海に住む」とすれば、「海ズミ」の神とは、「海住み」の神。


 「海に住む者」の神=上=すなわち支配者です。

 その支配者が「竜」なのです。

 そして「ワタツミ」に「倭・辰巳」と当て字すると、

 「辰」は竜、「巳」は蛇のことですから、

 やはり霊的な爬虫の住む世界ということになります。

 亀は不老長寿の霊物だとされていました。

 それは「海に住む=ワタズミ」の生物であり、

 しかも実在しない竜と違って、

 実在する「ワタズミの者」のうちでの最高の霊物だとすれば

 実際には「海住みの神」に当たるものは「亀」以外にはいません。

 だから沖縄では、それを「カミ」と呼ぶのです。

 それは決して「カメ」が訛ったものではなくて、

 逆に沖縄語から「神」と「亀」が二つに分裂して生まれたのです。

 そうした言葉の変化が、海の「神」と「亀」とを生み出し、

 さらに「竜」に発展し、しかも「亀」が登場する

 『浦島太郎』の方に「竜宮城」という名を残したのです。

 そして「竜」にも動かせない根拠があって、

 それがでたらめな伝承ではないことがわかります。



 『検索』

 『参考』
 ウワイト(倭人)ウバイド        
 歴史学講座『創世』うらわ塾         
 

 小林登志子『シュメル-人類最古の文明』:中公新書
 

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