出典:加治木義博:言語復原史学会
邪馬臺国の言葉
コスモ出版社
130~132頁
伊勢の神宮建築をさらに深く観察してみると、
<千木>が<角>を意味することが、
誤りでないことを証明するものが幾らでも見つかる。
図を御覧戴けば充分なように、
それは<牛の頭部>を表現する数々の努力の跡を
止どめているのである。
まさか<神宮>と<牛の頭>とお思いになる方も多いと思うが、
天照大神の弟であるスサノオの命は間違いなく
「牛頭天王」とされているし、
邪馬臺国の官名にもそれが見られる。
その証拠に<『記・紀』の世界>と<倭人章世界>を結ぶ
重要なシムボルが、<牛>であるという事実を、
これから御覧に入れることにしょう。
漢字音が時代によって大きく変化したことは
もうすでにお話ししたが、
コラムの説明のとおり、
カールグレン氏によってそれが
<上古音>、<中古音>、<近世音>に三大別された。
邪馬臺国四つの官名のうち<奴佳鞮>は、
この研究結果に従がうと、
中古音で「ヌォガィディェイ」と
発音せねばならぬことになるが、
これはどうみても日本語や朝鮮語ではない。
どこの言葉に一番似ているかというとマレー語なのである。
例をあげると、マレーの<州>は<ヌグリ>とよばれる。
また少し発音が変わるが<N>が語頭に来る
<Nガ>(<ン>と<ガ>を別々に発音してはいけない。
一種の鼻音で、しいていえば
<ヌァ>に近い音にきこえる)云々という語が、かなりある。
<ンガリル>は「流れる」という意味をもっているから
<ヌガリル>の方が<ナガレル>に
近いことはすぐおわかりになると思う。
<ンギアウ>は<ネコの啼き声>だから、
<ニヤウ>であって<ン何々>でないこともおわかりと思う。
では<ヌォガィディェイ>に一番近い言葉は何かというと、
<ヌガンディ>という名詞である。
<ヌガンディ>とは何かというと、
これは<牛の像の名>なのである。
ジャワの有名なチャンディ・プレムバナン」寺院にある
<ジワ教>の<聖なる牛像>は今でも
「ヌガンディ」とよばれて信者の崇敬を集めている。
次に<載斯烏越>を同じく<中古音>で読むと
「ツァイシェウォ<ジワ>ブト」ということになる。
この<ツァイシェウォ>を、
旁国名にあてはめてみると「対蘇王」と
当て字されたものに合うが
ジワブトは右の<ジワ>と人(びと)
「ジワ人(と)」と読めるのである。
また<掖邪狗>を中古音でよむと
「ヤ<ジワ>ォカウ」となり、八<ジワ>公ともなる。
さらに、<都市牛利>をみると中古音で
「ツオジ<ヌギャンリ>ー」となり
<ヌギャンリー>の部分は<ヌガソディ>とそっくりになる。
しかもこの名は最初からヌギャンリーに対して
「牛利」と文字の意味まで一致する用字になっている。
さらに思い出して戴きたいのは
<卑弥呼>の語源であった<天の日矛>の別名、
<ウシキアリシチ>や、<ツヌガアラシト>であり、
そのまた語源である沖縄の国名の音が、
<チヌ>、すなわち「角」であったことである。
一体、こんなに偶然が重なることがあるであろうか?
「図:牛頭を象った神宮建築の棟飾部」(加治木原図)
角・上顎・鼻面・耳・歯・下顎
「カールグレンと漢音」
スェーデンの支那(中国)学者ベルンハルド・カールグレンは
1915年以来、
中国文化についての優れた業績を残したが、
中でも中国語の声韻が、
時代によって大きく変化したことを、はっきりと突きとめ、
それを一般に理解し易い形で解説してくれたことは、
中国語ばかりでなく、
漢字文化の一面を担う日本の古代史学にとっても、
貴重な貢献であったことを忘れてはならない。
彼はこの学問の創始者でもなく、
またその結果にも限界があるが、
それは人力として当然のことであって、
彼がこの学問を新らしいシステムによって人類に
役立つものに高めた事実は永く感謝される価値をもっている。
〔例〕 上古音 中古音 現代音
邪 dzia zia sie
邪 dzio ziwo su
馬 ma ma ma
臺 deg dai tai
壱 iet iet yi
奴 no nuo nu
佳 geg gai gia gie
佳 keg kai kia kie
鞮 dieg zie chi
鞮 dieg diei ti
烏 o uo wu
越 giwat jiwbt yue
『参考』
小林登志子『シュメル-人類最古の文明』:中公新書
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