2010年5月24日月曜日

聖牛名をもった官名


 出典:加治木義博:言語復原史学会
    邪馬臺国の言葉
    コスモ出版社
    130~132頁

 
 伊勢の神宮建築をさらに深く観察してみると、

 <千木>が<角>を意味することが、

 誤りでないことを証明するものが幾らでも見つかる。

 図を御覧戴けば充分なように、

 それは<牛の頭部>を表現する数々の努力の跡を

 止どめているのである。

 まさか<神宮>と<牛の頭>とお思いになる方も多いと思うが、

 天照大神の弟であるスサノオの命は間違いなく

 「牛頭天王」とされているし、

 邪馬臺国の官名にもそれが見られる。

 その証拠に<『記・紀』の世界>と<倭人章世界>を結ぶ

 重要なシムボルが、<牛>であるという事実を、

 これから御覧に入れることにしょう。

 漢字音が時代によって大きく変化したことは

 もうすでにお話ししたが、

 コラムの説明のとおり、

 カールグレン氏によってそれが

 <上古音>、<中古音>、<近世音>に三大別された。

 邪馬臺国四つの官名のうち<奴佳鞮>は、

 この研究結果に従がうと、

 中古音で「ヌォガィディェイ」と

 発音せねばならぬことになるが、

 これはどうみても日本語や朝鮮語ではない。

 どこの言葉に一番似ているかというとマレー語なのである。

 例をあげると、マレーの<州>は<ヌグリ>とよばれる。

 また少し発音が変わるが<N>が語頭に来る

 <Nガ>(<ン>と<ガ>を別々に発音してはいけない。

 一種の鼻音で、しいていえば

 <ヌァ>に近い音にきこえる)云々という語が、かなりある。

 <ンガリル>は「流れる」という意味をもっているから

 <ヌガリル>の方が<ナガレル>に

 近いことはすぐおわかりになると思う。

 <ンギアウ>は<ネコの啼き声>だから、

 <ニヤウ>であって<ン何々>でないこともおわかりと思う。

 では<ヌォガィディェイ>に一番近い言葉は何かというと、

 <ヌガンディ>という名詞である。

 <ヌガンディ>とは何かというと、

 これは<牛の像の名>なのである。

 ジャワの有名なチャンディ・プレムバナン」寺院にある

 <ジワ教>の<聖なる牛像>は今でも

 「ヌガンディ」とよばれて信者の崇敬を集めている。

 次に<載斯烏越>を同じく<中古音>で読むと

 「ツァイシェウォ<ジワ>ブト」ということになる。

 この<ツァイシェウォ>を、

 旁国名にあてはめてみると「対蘇王」と

 当て字されたものに合うが

 ジワブトは右の<ジワ>と人(びと)

 「ジワ人(と)」と読めるのである。

 また<掖邪狗>を中古音でよむと

 「ヤ<ジワ>ォカウ」となり、八<ジワ>公ともなる。

 さらに、<都市牛利>をみると中古音で

 「ツオジ<ヌギャンリ>ー」となり

 <ヌギャンリー>の部分は<ヌガソディ>とそっくりになる。

 しかもこの名は最初からヌギャンリーに対して

 「牛利」と文字の意味まで一致する用字になっている。

 さらに思い出して戴きたいのは

 <卑弥呼>の語源であった<天の日矛>の別名、

 <ウシキアリシチ>や、<ツヌガアラシト>であり、

 そのまた語源である沖縄の国名の音が、

 <チヌ>、すなわち「角」であったことである。

 一体、こんなに偶然が重なることがあるであろうか?

 「図:牛頭を象った神宮建築の棟飾部」(加治木原図)

  角・上顎・鼻面・耳・歯・下顎

 「カールグレンと漢音」

 スェーデンの支那(中国)学者ベルンハルド・カールグレンは

 1915年以来、

 中国文化についての優れた業績を残したが、

 中でも中国語の声韻が、

 時代によって大きく変化したことを、はっきりと突きとめ、

 それを一般に理解し易い形で解説してくれたことは、

 中国語ばかりでなく、

 漢字文化の一面を担う日本の古代史学にとっても、

 貴重な貢献であったことを忘れてはならない。

 彼はこの学問の創始者でもなく、

 またその結果にも限界があるが、

 それは人力として当然のことであって、

 彼がこの学問を新らしいシステムによって人類に

 役立つものに高めた事実は永く感謝される価値をもっている。

〔例〕    上古音 中古音 現代音

    邪    dzia    zia     sie

    邪    dzio    ziwo    su

    馬  ma   ma      ma

    臺  deg     dai     tai

        壱    iet     iet     yi     

    奴    no      nuo     nu   

        佳    geg     gai     gia     gie   

        佳    keg     kai     kia     kie

        鞮    dieg    zie     chi    

    鞮    dieg    diei    ti    

       烏   o       uo      wu  

    越    giwat   jiwbt   yue  


 『参考』

小林登志子『シュメル-人類最古の文明』:中公新書

0 件のコメント:

コメントを投稿