出典:加治木義博:言語復原史学会
異説・日本古代国家
㈱田畑書店
77~80頁
『記・紀』の神々の名が混乱しており、復原を要すること。
その方法。
それによって立派にもとの形がわかり、
『記・紀』には混乱はあっても、
それは作りものでなく、方法さえ正しければ真実がわかる、
優れた記録であったことが証明できた。
戦後は神話部分は全くのでたらめと断定されて、
こうした結果が出ることなど、予測しもせず、
また、それに取り組む人さえなかったことを思えば、
まず幸先のよいスタートだといえる。
次は人名の番である。
こちらは欠史天皇や実在の危ぶまれている人々はさけて、
応神天皇のお妃(キサキ)を選んでみた。
応神天皇なら、世界最大の墓をもち、
河内王朝という呼び名まで与えられた王朝の初代天皇で
神武天皇のモデルだという説まであり、
倭の五王の一人か、その祖先だとされているからである。
だが、それ程の天皇のお妃さえも混乱が見られるのである。
この方は『日本書紀』では一人であるが、
『古事記』の方で二人に分裂しているようにみえる。
それを調べてみよう。
日本書紀
高城入姫 (タカキイリヒメ)─去来真稚皇子(イザのマワカ)
古事記
高木之入日売 (タカキノイリヒメ)─伊奢之真若命(イザノマワカ)
古事記
葛城之野伊呂売(カツラキノノイロメ)─伊奢能麻和迦王(イザノマワカ)
方法は全く同じである。
比較である。
この場合、かなり長い名であるのと、二つの名であるから、
縦書きにした方が便利だ。
また、長い名を先にして、同じ文字をそろえるのが見やすい。
カツラキノノイロ メ
タカ キノ イリヒメ
ノが一つ多いのは野を入れた上に、また助詞の之を入れたため。
イロメはイリヒメの訛りか、
入姫と書いて正しくはイロメとよむのか、
とにかく問題になる部分ではない。
とすれば残るのは高と葛である。
この二字を図のように草書体が原因の読みちがえ、
と考えると問題は一度に片づく。
しかし、ここではこの二字が同じ音にあてられた別字と
考えてみよう。
その共通のよみ方は、
葛←→高
(字型による読みちがえ)
明←→多
(角度による読みちがえ)
須 順 沿 沼 治 冶
毌 毋 母 芧 芳 芽 茱
匀 句 勾 薜 薛 薢 葪
ス ? ジュソ エン セウ ジ ヤ ?
クヮソ ブ ポ ド バウ ガ シュ ?
イン ク コウ へイ セツ カイ ケイ ?
草書が原因の読みちがえ(似た文字はいくらでもある)
高 タカ、タケ、タ、カウ、コウ、カ、コ
葛 カツラ、カヅ、カ、カド、クズ、フジ
これは「カ」という頭音だけを使用すれば、ぴったり一致する。
「カウ」と「カブ」でも近音で相互に代理できる。
原音は「カキ」、「カウキ」、「カヅキ」とすれば、
相互に字が変ってもよいことになる。
この場合は草書体、発音ともに一致するから、
明らかに同名を別字で書いたものを、
タカキ、カツラギと読み分けて、二人に分裂したもので、
多くの資料を集めて編集するという歴史編纂にはつきものの、
情報過多性疾患であったことが証明された。
これで、原因は何にせよ、こうした混乱を復原できること、
その正しい答えは複数になった記録を同じによめる読み方こそ、
真実のものであることが判った。
古い名を、研究も調査もせずに、でたらめに、
こう読むときめていたことが大変なまちがいだったことが、
いま明らかになったのである。
以上は、同じ天皇の家族の中での誤りであったから、
ごく自然で、ありうる事故であった。
ところが、この人物の名前は、
あるいはもっと重大な問題のカギになる可能性が、あるのである。
それは、高城入姫と書いて、タキリヒメと読めるためである。
それが何故重大なカギになるか、というと、
他にタキリヒメという人物が存在するからである。
『参考』
小林登志子『シュメル-人類最古の文明』:中公新書
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