2010年3月30日火曜日

人名復原のABC


 出典:加治木義博:言語復原史学会
    異説・日本古代国家
    ㈱田畑書店
    77~80頁
 『記・紀』の神々の名が混乱しており、復原を要すること。

 その方法。

 それによって立派にもとの形がわかり、

 『記・紀』には混乱はあっても、

 それは作りものでなく、方法さえ正しければ真実がわかる、

 優れた記録であったことが証明できた。

 戦後は神話部分は全くのでたらめと断定されて、

 こうした結果が出ることなど、予測しもせず、

 また、それに取り組む人さえなかったことを思えば、

 まず幸先のよいスタートだといえる。

 次は人名の番である。

 こちらは欠史天皇や実在の危ぶまれている人々はさけて、

 応神天皇のお妃(キサキ)を選んでみた。

 応神天皇なら、世界最大の墓をもち、

 河内王朝という呼び名まで与えられた王朝の初代天皇で

 神武天皇のモデルだという説まであり、

 倭の五王の一人か、その祖先だとされているからである。

 だが、それ程の天皇のお妃さえも混乱が見られるのである。

 この方は『日本書紀』では一人であるが、

 『古事記』の方で二人に分裂しているようにみえる。

 それを調べてみよう。

 日本書紀

 高城入姫 (タカキイリヒメ)─去来真稚皇子(イザのマワカ)   

 古事記

 高木之入日売 (タカキノイリヒメ)─伊奢之真若命(イザノマワカ)

 古事記

 葛城之野伊呂売(カツラキノノイロメ)─伊奢能麻和迦王(イザノマワカ)

 方法は全く同じである。

 比較である。

 この場合、かなり長い名であるのと、二つの名であるから、

 縦書きにした方が便利だ。

 また、長い名を先にして、同じ文字をそろえるのが見やすい。

    カツラキノノイロ メ

   タカ  キノ イリヒメ

 ノが一つ多いのは野を入れた上に、また助詞の之を入れたため。

 イロメはイリヒメの訛りか、

 入姫と書いて正しくはイロメとよむのか、

 とにかく問題になる部分ではない。

 とすれば残るのは高と葛である。

 この二字を図のように草書体が原因の読みちがえ、

 と考えると問題は一度に片づく。

 しかし、ここではこの二字が同じ音にあてられた別字と

 考えてみよう。

 その共通のよみ方は、
     葛←→高

 (字型による読みちがえ)

     明←→多

 (角度による読みちがえ)

 須       順   沿  沼  治  冶   

 毌   毋   母   芧  芳  芽  茱   

 匀   句   勾   薜  薛  薢  葪  

 ス   ?   ジュソ エン セウ ジ  ヤ  ?

 クヮソ ブ   ポ   ド  バウ ガ  シュ ?

 イン  ク   コウ  へイ セツ カイ ケイ ?

 草書が原因の読みちがえ(似た文字はいくらでもある)

 高 タカ、タケ、タ、カウ、コウ、カ、コ

 葛 カツラ、カヅ、カ、カド、クズ、フジ

 これは「カ」という頭音だけを使用すれば、ぴったり一致する。

 「カウ」と「カブ」でも近音で相互に代理できる。

 原音は「カキ」、「カウキ」、「カヅキ」とすれば、

 相互に字が変ってもよいことになる。

 この場合は草書体、発音ともに一致するから、

 明らかに同名を別字で書いたものを、

 タカキ、カツラギと読み分けて、二人に分裂したもので、

 多くの資料を集めて編集するという歴史編纂にはつきものの、

 情報過多性疾患であったことが証明された。

 これで、原因は何にせよ、こうした混乱を復原できること、

 その正しい答えは複数になった記録を同じによめる読み方こそ、

 真実のものであることが判った。

 古い名を、研究も調査もせずに、でたらめに、

 こう読むときめていたことが大変なまちがいだったことが、

 いま明らかになったのである。

 以上は、同じ天皇の家族の中での誤りであったから、

 ごく自然で、ありうる事故であった。

 ところが、この人物の名前は、

 あるいはもっと重大な問題のカギになる可能性が、あるのである。

 それは、高城入姫と書いて、タキリヒメと読めるためである。

 それが何故重大なカギになるか、というと、

 他にタキリヒメという人物が存在するからである。

『参考』

小林登志子『シュメル-人類最古の文明』:中公新書

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