2010年4月16日金曜日

発祥地説の欠陥点(1)


 出典:加治木義博:言語復原史学会
    異説・日本古代国家
    ㈱田畑書店
    184~186頁
 ずいぶんきついことをいうとお思いの方もあろうから、

 ここで神話や伝承をとりあつかう上で、

 何が間違っていたのかを、もう少しよく考えておこう。

 神話や伝承や民俗を研究するということは、

 一体何が目的なのだろう?

 集めたり内容を分析したりして何を知ろうというのか?

 ただ内容を分析するのが面白いというのなら、

 単純な神話や伝説より、

 もっと複雑な内容の現代小説の方がやり甲斐がある。

 それをあえて神話や伝説に限るというのは、

 その神話や伝説の内容が目的なのではなく、

 それを手がかりに、

 古代の真相を知ろうという第一目的があるからである。

 ひと言で言えば古代史の謎をとく手がかりの一つとして、

 歴史的興味に支えられた、

 史学の一分野としてこそ研究する意義と価値があるのである。

 もちろん、視点は様々に変る。

 宗教とのつながり、産業とのつながり、政治とのつながり、

 あるいは生物学とのつながりといった小さな目標は

 異なって当りまえであるが、

 神話や伝承を、古代からの遺産と考え、

 それによって歴史の真相を知ろうとすることに変りはない。

 だとすればたとえば分布の問題は、

 その伝承をもった人々の移動や

 血縁関係を確かめるためのものということになる。

 それを教えてくれるのは伝説の骨組みではなくて、

 そこに含まれた「細部の異同」である。

 それらをすべて分析してはじめて、どの話はどの話から分れて、

 どう変化して行ったかがわかる。

 単に同じ系統の話が、どことどこに分布している、

 ということだけで、

 結論らしいものを出すことは、百害あって一利ないのである。

 もう一度力を入れて強調するが、

 私たちが神話や伝説の分布をしらべるのは、

 分布そのものでなく、歴史を知ることが目的である。

 が、神話の研究を分布だけで止めていて、

 それがわかるであろうか?

 その神話が私たちのものと全く同じであっても、

 それが分布している土地のすべてが、

 私達の祖先の出身地であるとは考えられない。

 それらは分布の新しい部分「末端」であって、

 古い部分、「始まり」ではないのである。

 私たちの祖先の目的は、

 その始まりの部分である所の共通の祖先を知ることにある。

 だから分布やモチーフは目的とする答えではない。

 それを手がかりにして同じ話と思われるものを集め、

 その中の異同をたぐつて、

 その発生源をつきとめることが目的なのである。

 「地図:従来の天孫族発祥地説」

 ① 北方騎馬民族説(中国)

 ② 徐福説(中国)

 ③ 朝鮮説(韓国)

 ④ 東大古族説(中国)

 ⑤ 太伯説(中国)

 ⑥ クメール説(タイ)

 ⑦ レプチャ説(ネパール)

 ⑧ アルメニア説(トルコ)

 ⑨ ヘブライ説(イスラエル)

 ⑩ ギリヤーク説(ロシア)

 ⑪ ポリネシア説(太平洋)

 
 「図:スサノオ型神話分布系統図(模式図)」

 唯一の事件が下記の地域に分布した。

 日本・ギリヤーク・アイヌ・朝鮮・蒙古・浙江・

 福建・ラオス・カンボジア・

 フィリピン・ボルネオ・インドネシア

『参考』

小林登志子『シュメル-人類最古の文明』:中公新書


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